厳密にいえば、鞄屋の親父なのだが
阪急三番街のしゃれたお店ではない。
嵐が来たらぶっ飛んでいきそうな掘建て小屋に
新品と名乗る、埃がかぶった商品が並ぶ。
狭い店内は暗くて親父がいるのかいないのかすら見えない。
偽物臭が漂う、某有名スポーツブランドバッグの横に
ここだけはこだわりか、
きちんとオーダーして活字で印刷された看板を掲げている。
その名もBAG SHOP.
いつ前を通っても商品は同じ。
買いものをしている人も見た事がない。
が、ある日、その親父がカバンの修理もできる事に気がついた。
クローゼットにもう1年も前から修理しなければと買ったまま、
壊れたまま私についてきているカバンが2つある。
1つは叔父の彼女さんが使っていた某ブランド物の革鞄。
四角くてカメラが入る。
ただ、古過ぎて革がいたみ、もう2度ほどストラップが切れている。
このストラップ自体を変えてほしいのが1点
そしてもうひとつは
日本で買った旅行用のパラシュートバッグ。
そこが四角くなっていて、側面に筒状のベルトにコロコロの持ち手を差し込めば、
お行儀よくノッカてくれてらくらく移動ができる、あの代物だ。
気に入っていたのに1回使ってジッパーが壊れた。
これはジッパーを取り替えなければいけない。
ただ、ショッキングピンクのジッパーだ。
帰ってきたらトンでもない色に帰られていたらどうしよう。
ええい、買えなければタンスの肥やし。
やってやれ。
おっちゃんに持っていった。
結局おっちゃんはべるとは変えれないという。だから新しい穴を強そうな箇所にあけてあげると。
肝心のジッパー。
おんなじ色のジッパーにしてね。(無理だと思うけど)
といったら
いや、変えなくていけるよこれ
というわけだ。
うそーーん、おっちゃん嘘やろ、
後になってから緑のジッパーとかやめてや。
まあ、直さなかったらタンスの肥やしである。
どうにでもなれ。
親父は1時間でできるというので
その間にクリーニング屋にいき、スーツとガーグラをクリーニングにだし、
野菜を買って、卵を選んだ。
うっかり素通りしそうになりながら
掘建て小屋から親父がカタツムリのようにぬっ身を乗り出して私を呼び止める。
四角の鞄は思った通りの出来上がり。
ジッパーは親父がいった通りもともとついていた物を
すっかり直してしまったから驚いた。
親父すげえ。
すごい!!とはしゃいでたら
親父が照れながら、ま、わしにかかったらこんなもんやの顔をしたのを見逃さなかった。
これで次の一時帰国もいっぱい買える♩
いやあ、親父すげえ。
何がすごいって技術というかちえがあるっていうのがすごいよね。
知識だけじゃあかんねん。
技術と知恵がないとさ。
だってこの親父、もしサラリーマンだったとしてある日突然会社倒産して職を失っても
とりあえずジッパー直して生活出来るねんで。
ありがとう、親父。
これが生きるという事か。